音響設備を導入する場合に目的とされる2つのパターン
スピーカーを始めとした音響設備の導入を検討される目的として、音楽イベント、ブティックで店内音楽、フィットネスクラブでの音声マイク、またはオフィスでのBGM、レストランでのアコースティッライブなど様々だと思います。
その際、スピーカーの配置方法やスピーカーの選び方をどうすれば良いかなどお悩みかもしれません。今回は、基本的な考え方をご案内します。
一般的に、音響設備を使用するケースとして、大きく2つにわけることができるかと思います。
1:ライブイベントなどのように、音楽や音声そのものやまた音を出している人を主役・商品として考えるケース
2:商業店舗BGMなどのように、商品や空間に付加価値を与えるものとして考えるケース
では、具体的にどういった違いがあるでしょうか?音響の観点から少し掘り下げて考えると、以下のような事項が挙げられます。
1:ライブイベント
- ステージから人に向かって音が出るように音に方向性を持たせる。
- 音の輪郭がハッキリと伝わるようにする。
2:店舗(オフィス)BGM
- 人がどこに滞在をしても、音が均一に届くようにする。
- 音の輪郭より、空間の心地よさや会話を妨げないようにする。
では、それぞれのケースに分けて、スピーカーの配置方法、求められる音質とスピーカー選び方をご紹介いたします。
スピーカーの配置方法
ライブイベントの場合
お客様が一定の場所に集まって、全員同じ方向:ステージを見ている場合
配置方法:スピーカーはステージ近辺に1カ所に集中して配置させ、ステージからお客様へ向かって音が出るように音に方向性を持たせます。
このケースは、音楽イベントだけではなく、フィットネスクラブでのレッスンの場や、学校での講義やビジネスにおけるプレゼンテーションの場なんかもそうではないでしょうか。
お客様の注目や感動を生み出すためにも、見ている方向と音が出る方向とを一致させる必要があります。ステージから向かって横方向から音が出ていると明らかに変ですものね。
音声とビジュアルの角度が20度以上離れると、人はそれぞれを別々のものと認識する傾向にありますので、最もベーシックな設置方法としては、ステージの両隣に各1台ずつ計2台設置する方法があります。
しかし、必ずしもにステージの周辺だけに設置をすれば良いかというとそういう訳ではありません。なぜなら音はスピーカーから離れるにつれて段々と減衰:小さくなるからです。後ろまで音を届けようとすると、音量を単純に上げれば良いことになりますが、それですとステージに近いお客様に取っては音が大きくなり過ぎる場合があります。
また、実は人は音を吸収します。特に、声や、歌メロディーなどの需要な部分を吸収します。(専門用語で"吸音率"といいます。)ですので、人がいないと後ろまで聞こえるが、人が大勢入ると後ろまで聞こえにくくなるという事はよくあるのです。
過去、弊社にお問い合わせを頂いた事例として、フィットネスクラブ・学校などで後ろの方に音楽・音声が聞こえにくいという事でした。現場を拝見させて頂いたところ、ステージ/教壇の両脇にスピーカーを設置されているだけでしたので、人が入ると後ろの方に音が届かなくなっていたようです。
ですので、面積が広い会場の場合は、音の方向性を保ったまま、ステージの両隣以外にも補正用としてのスピーカーを増設する必要があります。
ポイントのまとめ
- ステージの周辺にスピーカーを設置し、客先にスピーカーを向ける。
- スピーカーの音量の減衰を考え、面積に応じてステージ周辺以外の場所にもスピーカーを増設しつつも、全体的な音の方向性は持たせる。
店舗(オフィス)BGMの場合
ライブイベントとは異なり、お客様が一定の場所に滞在されておらず自由に動き回る場合、また動き回られなくとも座席が一か所に集められてはいなく、お客様が様々な方向を向いている場合。
配置方法:スピーカーは、お客様の導線・客席を踏まえて分散をさせて配置をし、お客様がどこに滞在をしても、音が均一に届くようにします。
先述のようにスピーカーから出る音は、距離に応じて小さくなりますので、この特性と空間レイアウトを踏まえて、設置場所と台数を決定する必要があります。
BGMの効果として、"マスキング効果:例えば、外から漏れて聞こえる車の音、他の座席の会話やガヤガヤ感を紛らわせる効果"があげられますが、ある場所ではBGMがほとんど聞こえず雑音だけが目立つ、ある場所ではBGMがうるさいといった事を避けます。
ちなみにライブハウスやクラブの場合ですと、スピーカーの設置を前提として空間設計がされていますが、商業店舗の場合はそういうケースは稀で、音響的には適しているけど、建築的・意匠(デザイン)的に適していないといったケースも発生します。そういった意味では、スピーカーの設置プランニングは、商業店舗では複雑であるといえます。
ここで、ポイントとなるのがスピーカー毎に音量が調整できるシステムであるかどうかです。なぜなら、スピーカーを設置する場所の体積が異なる場合(例えば、個室と大きなフロア、天井が高い場所と低い場所など)、同じ音量でスピーカーから音楽を流すと、音の反射の影響から、小さい場所では大きい場所と比べて音量が大きく感じられてしまいます。ですので、各スピーカー毎に音量を調整できると大変効果的です。詳しくは、以下のページをご参照ください。
(関連ページ)複数の店舗スピーカーの音量を個別に調整出来る秘密の方法
ポイントのまとめ
- スピーカーの音の減衰と、お客様導線・客席・レイアウトを踏まえてスピーカーを配置する。
- 各スピーカーの音量を個別に調整できるようにすると効果的。
求められる音質とスピーカーの種類
ライブイベントの場合
- 音質:スピーカーから直接出る音をしっかりとお客様に伝え、音の輪郭がはっきりと伝わるようにします。
- スピーカーの種類:PAスピーカーと呼ばれるものが存在します。
基本的に、スピーカーは、正面の中心の部分から出る音が一番ハッキリと聞こえ、中心部分からずれるに従って音がぼやけてしまいます。ですので、この特性を踏まえスピーカーの高さや設置角度を調整する事がポイントです。
またスピーカーから直接出る音以外にも、床や天井などに反射をして届く音:反射音が存在します。この反射した音はさらに反射を繰り返して四方八方に拡散します。
この反射音は、音に広がりを与え包み込まれた感じを演出し、アコースティックライブやクラッシックコンサートなどでは良い音空間となりますが、しかしこの反射の音の量が多すぎても音の輪郭が曖昧になります。ですので、反射音を適度に抑え直接音をしっかりと届けるためにも、高さや設置角度に注意をする必要があります。
特に、体育館やホールのような天井が高い空間などでは、どうしても反射音の量が大きく発生します。その場合は、音の拡がる角度が狭いスピーカーを選び反射音を抑えるというのも一つです。特に、スピーカーから見て垂直方向に音が拡がる角度が狭いと、天井や床からの反射音が抑えられ都合が良いことが多いです。
スピーカーの音の拡がりを示す指針として、"指向角度/指向性"と表記されます。この角度が小さいほどスピーカーから出る音の範囲が狭まります。一般的にPAスピーカーと呼ばれるスピーカーは、指向角度が狭いので適している傾向にあります。
しかし、一般の商業空間でPAスピーカーを設置するデメリットとして、スタンドでの設置になる場合が多く、事前にスペースを確保しないと邪魔になる事があげられます。また天井に吊り下げるにも重量が重いので特殊な施工が必要となる場合があります。その時は、環境によっては吊り下げが可能で比較的重量の小さい店舗用スピーカーでも代用が可能です。
その他の音質に関しては、各楽器のバランス、全体の音の周波数などが関係します。こちら併せて以下のページもご参照ください。
(関連ページ) 店舗で音楽ライブを開催する為に最低限知っておきたい3つの事
ポイントのまとめ
- 反射音を適度に抑えつつ直接音をしっかりととどける。そのために、スピーカーの設置の高さや角度を調整する。
- 指向角度が狭いPAスピーカーを選ぶ場合もあるが、環境によっては店舗用スピーカーでも代用が可能。
店舗(オフィス)BGMの場合
- 音質:反射音を効果的に活用し、うるさく響かずまた会話の邪魔にならないようにします。
- スピーカーの種類:店舗/商業空間向けスピーカーと呼ばれるスピーカーが存在します。
先述のように、スピーカー正面から出る音は輪郭がはっきりするため、BGMとして聞く場合には、反対にうるさく感じ会話の妨げになる場合が多いのです。ですので、壁などに音を反射させて、間接照明のように、空間全体に音がやさしく包み込まれるようにさせ、心地よさを高めることがポイントとなります。
ただ、空間環境や反射させる素材によっても聞こえ方が大きく異なります。例えば天井が高いと先述のように音がぼやけすぎて一体何の音楽を流しているか分からなくなりやすく、また反射する素材が硬い場合(コンクリート・ガラスなど)高い音がキンキンとして反対にうるさく感じてしまう場合があります。スピーカーの設置角度を調整して、直接音と反射音のバランスを上手にとる必要もありますのでご注意ください。
店舗では、反射音を生みやすくするために指向角度が広いスピーカーがお勧めです。数が少ない台数でも音が空間に効果的に届けられ、コスト削減にもつながるというメリットもあります。メーカーによっては、店舗/商業空間向けとして販売をされていますので、検索をしてみてください。
ただ指向角度が狭いスピーカーでも、空間の形状や音を届ける範囲を考慮すれば、こちらでも有効な場合があります。ホームオーディオ用のスピーカーは、指向角度が狭いのですが、ビジュアルのイメージから好まれる場合もあります。(ただし吊り下げられるタイプが少ないので注意は必要です。)
また、イコライザーという機器を使って音質を調整し、適度に音量を流してもうるさく響かないようにすることも可能です。詳しくは、以下も併せて参照ください。
(関連ページ)「居心地が良い音」と「居心地が悪い音」の法則とは?
(関連ページ) BGMの音量を上げても、会話を邪魔しない音空間作りの秘訣
ポイントのまとめ
- 反射音を中心に届ける。環境によっては直接音とのバランスを考える。
- 指向角度が広い店舗/商業空間向けスピーカーを選ぶと良いが、環境によってはホームオーディオ用スピーカーでも代用が可能。
最後に
では、実際に空間のどこにスピーカーを配置して、角度を調整すればよいか?というのは、実際のところ専門家ではないと難しいところがあるかもしれません。また音は感性の部分でもありますので、これで良い・悪いの判断は、耳が慣れていないと難しいかもしえません。しかし、大体のイメージは掴めたのではないでしょうか?
もし、貴社の空間と目的に合った音響システムの設置工事、そして心地よい音空間作りをご希望の場合は、以下のページを是非ご参照してみてください!