音質を決定する要素とは?
クラブやバー、フィットネスクラブ、店舗BGM、ホームオーディオなどで、「音質を変えたい!」「もっと良い音で楽しみたい」といったご意見をいただくことがあります。
「このスピーカーはドラムの音が力強い」「あのスピーカーはヴォーカルが際立つ」といった表現がされることがありますが、そもそも、これらの印象を決める要素は何でしょうか?
今回は、音質を決定する要素の一つである「周波数」についてご紹介します。他にも「ステレオ感/臨場感」や「響き」などの要素がありますが、これらはスピーカーの設置場所や環境によって左右されます。設置後に調整するには、施工が必要になることもあるため、まずは「周波数」についてご説明します。
ちなみに「周波数」の特性は、アプリなどを使って比較的簡単に測定でき、視覚的に確認しやすい点が特徴です。
後述しますが、この特性は「イコライザー」という機器で調整が可能で、好みの音質を作り上げたり、音質を向上させたりすることができます。イコライザー(EQと呼ばれることも多いです)は、音楽制作の現場でも多くのプロセスで活用される必需品です。
(参考記事)BGM・音楽の「うるさい!」を聴覚メカニズムから改善する方法
音質を決める周波数特性とは?
では、「周波数」とは何でしょうか?
皆さんは、水たまりに石を落としたときに広がる波紋を見たことがあるでしょう。波紋は、広がっていくうちに消えていき、障害物にぶつかると新しい波が生まれ、互いに干渉し合う現象が見られます。この波紋をよく見ると、波が繰り返し動いているのが分かります。この1秒間に繰り返す波の数を「周波数」といいます。
音も波であるため、周波数という尺度を使って音を表現します。周波数は、無線電波(Wi-Fiなど)の話題でも登場する概念で、波の特性を表す尺度の一つです。単位は「Hz(ヘルツ)」です。
音楽に例えて、簡単にご案内すると「低い周波数の音⇒低音」「高い周波数の音⇒高音」と考えてください。
低音:150 Hz以下
・低いドラム(バスドラム)
・ベース など
中音:150~4 kHz
・ギターコード
・ピアノコード
・ボーカル など
高音:4 kHz以上
・高いドラム(ハイハット、シンバル) など
です。
ちなみに、人が認識できる周波数の範囲は、20 Hz~20 kHzまでで、加齢と共に高い周波数の音は認識しにくくなります。
一般的に、周波数を視覚化する際は、以下のようなグラフが用いられます。このグラフは「周波数特性」と呼ばれ、どの周波数帯域の音量が大きいか、小さいかを示します。
**縦軸を音量(音圧)、横軸を周波数としています。
例えば、低音の音量が大きい場合は、ドラムやベースなどの音が強調されやすくなります。また、中音の音量が大きい場合は、ボーカルが際立って聞こえる傾向があります。
音楽コンテンツに含まれている周波数特性と、実際に人が感じる周波数特性は異なる。
さて、ここからが本題です。音楽コンテンツに含まれている周波数特性と実際に人が感じる周波数特性は異なります。これは以下が原因となります。
1:スピーカーのスペック
2:再生する音量
スピーカーのスペックは分かりやすいですね。それ以外にも実は再生する音量によっても伝わる周波数特性が異なるのです。
では、次からはより掘り下げてご案内できればと思います。
1:スピーカーによって周波数特性が異なる
スピーカーによっては、ある帯域の音が比較的小さく再生される:聞えにくいものと、そうものなどの個性があります。周波数特性が違うのですね。
先述しました「このスピーカーの音は、ドラムの音のパンチが効いている」「どこどこのスピーカーの音は、ヴォーカルが浮き出る」などと表現されるのはこのためです。
スピーカーのスペック表には周波数特性が記載をされている場合もありますが、そうでない場合もあります。実際聞いてみないとなかなか判断ができない事が多いかもしれません。
再生周波数帯域を参考にしよう
ただ、参考になるスペック表記は存在します。それは、"再生周波数帯域"です。これは、低い音はどこまで再生されて、高い音はどこまで再生されるかを表したものです。
例えば、再生周波数帯域:100 Hz~16 kHzと表記されている場合、この範囲以外の音は再生されないという意味です。
ちなみに、音の迫力やノリを出す、バストラムやベースの音は、100 Hz周波数周辺かそれ以下である場合が多いので、上記のようなスピーカーですと、HIP-HOPやダンスミュージックなどには向いていないかもしれません。(店舗・業務用のスピーカーは特に注意が必要です。)
特に、低音の再生能力はスピーカーの大きさに大きく依存します。低音を効果的に再生するには、振動する面積が大きいスピーカーが必要です。スマホのスピーカーと映画館のスピーカーを比較すると、違いがわかりやすいでしょう。
2:再生する音量の違いで、感じる周波数特性が変わる
再生する音量によって、低音や高音がよく聞こえたり、聞こえにくくなったりします。例えば、音量を下げると全体的に音が小さくなるだけでなく、ベースなどの低音が特に聞こえにくくなることがあります。これはスピーカーの特性ではなく、人間の耳の性質によるものです。
上のグラフは「等ラウドネス曲線」を示しており、同じ音量だと感じる周波数帯域を表しています。簡単に言うと、音量が小さいほど低音や高音が聞こえにくくなるのです。たとえば、100 Hzの低音は1 kHzの中音に比べて、同じ音量で再生しても聞こえにくくなります。
そのため、低音が豊かに再生できるスピーカーを購入しても、音量を小さくすると低音が感じにくくなり、期待した効果が得られない場合があります。また、音量を下げると中音が目立ち、場合によっては音がキンキンと響いて耳障りに感じることもあります。これらは、一般的なレストランやショップなどでは良く体験する傾向ではないでしょうか?
イコライザーで周波数特性を変える
さて、ここまでは、スピーカーのスペックと再生する音量で、音質を決定する周波数特性が変化するという事をご案内させて頂きました。
しかし、すでにスピーカーは購入して設置してしまって気軽には買い換えられないという方もいらっしゃるかもしれません。また環境上、音量はあまり出せないと方もいらっしゃるかと思います。
そこでこれを解決する便利な機器をご紹介させて頂きます。先述のイコライザーという機器です。
*写真は、DBX社のイコライザー:215S
イコライザーは、ある特定の周波数の音量だけを上げたり下げたり出来る機器です。これにより音の周波数特性を変化させることで、お好みの音質に変えることが可能です。
例えば、音量を下げている事で、今まで中音が目立ってキンキンとしていたBGM音楽を、イコライザーで調整する事でうるさく響かないようにしたり、音量を下げたまま低音だけを強調する事で迫力やノリを出したりすることが可能です。
もちろん、ホームオーディオでもヴォーカルをより浮き出したり、バイオリンの空気感を目立たせたりすることが可能です。
ただし、スピーカーの再生周波数帯域以下の周波数特性はいくらイコライザーで調整しても、スピーカーから出せない音ですので効果はありませんのでご注意ください。
ちなみに、2013年に発売され日本でも大ヒットした洋楽「HAPPY」(SMAPもテレビ番組でカバーしていましたね。)を歌っているファレル。元々彼は、ネプチューンズという音楽プロデュースユニットを組んでいるのですが、その相方であるチャドが某雑誌で、「グレイトな音楽を作るコツは?」と聞かれると「イコライジングだ(イコライザーを効果的に活用する事だ。)」と言っていました。
イコライザーで調整する事で、限られた機器でも、音質はかなり改善され、良い音・お好みの音に近づきます。ただ、使い方によっては、音質が悪くなってしまいますので、ご注意ください。
弊社でも、既存の音響システムにイコライザーを設置し、目的やお好みにあう周波数特性の調整を行っておりますので、お気軽にご相談ください。